日本人にとって身近な存在、つまようじ。前回の「三角ようじ」でつまようじのスゴさを改めて見直していただけたと思います。ところで、みなさんは、つまようじがどのようにして、何から作られているか知っていますか?
今回は日本で唯一のつまようじメーカー「広栄社」取材のもと、知っているようで知らなかったつまようじの製造工程をご紹介します。つまようじの材料について取材を進めるうちに、意外な事実が分かりました!さてその事実とは?

 



つまようじは白樺の原木を切断するところから始まります。現在、広栄社では北海道の良質の白樺材を使用しています。つまようじは、現地北海道で原木の切断、煮沸、剥き工程へと進み、短板(板を短くカット)、乾燥(回転ドラム)、軸加工され、大阪・河内長野にやってきます。そこからつまようじの長さに切断・先付けして完成。これらの作業は全て機械で行われています※大根のかつら剥きと同じように剥いていきます!このことにより、白樺材の無駄な部分を出すことなく、全て使い切ることができるのです。

 


つまようじの原材料に白樺が選ばれた理由は、戦後アメリカから大量に入ってきたつまようじの原材料であったことがきっかけですが、それだけではありません。
白樺は成長が早いうえに自生する植物であるため、手間がかからず、種が飛んで自分で育つことができるので非常に便利な木材なのです。
材質自体が柔らかいため他の用途には適しにくいとされていますが、つまようじとして使用すると、その柔らかさが歯や歯ぐきを傷めることがなく正に最適。白樺は、つまようじにとっては最高の材質なのです。

 

 

料亭や和菓子屋さんなどでよく見かける堅くて大きめのつまようじがありますよね。これらは「黒文字」というクスノキ科の木から作られています。黒文字は昔、大阪・河内長野で大量に採れたため、河内長野ではつまようじ産業が非常に盛んになりました。その他、卯木(スイカツラ科)からもつまようじは作られています。

 


お釈迦様が使ったということで有名なつまようじの元祖とも言える歯木(歯を磨くための木で、主に仏教圏、イスラム教圏で使用)は、「ニーム」(インドセンダン)という木。その他、パキスタンでは「ピールー」、サウジアラビアでは「サルバドラ」などが有名で歯木のことをミスワック、スワックと呼び愛用しています。その他一般の国々では日本と同じように白樺が使われています。

 


つまようじの原材料には様々な木が使われていますが、これらに共通する点は何だと思いますか?
答えは「薬木である」ということ。
つまようじとして使われている木のほとんどは、フッ素やタンニン酸に加え、歯に非常に有効な成分が含まれているのです。
例えば、虫歯予防で有名な「キシリトール」という成分は、白樺から採取されています。また、「アスピリン」という鎮痛剤のもととなる「アセチルサルチル酸」は柳から採れる成分。「ニーム」は、歯木としてだけではなく、昔から皮膚病、化粧水など多くの用途に加え、殺虫効果としても使われています。スーダンでバッタの大群が発生し、農作物が壊滅的打撃を受けた際、ニームの木だけが生き残ったのは有名な話です。

 


つまようじとして使われていた植物にこれらの成分が入っていることが証明されたのは、近年になってからのこと。人間がつまようじ(歯木)を使い始めてからのことを考えればずいぶん後のことです。人間は大昔から無意識のうちに歯に有効な木を選び、使い続けてきたのです。
現在何気なく使っているつまようじは、人間の本能から選び抜かれ、なるべくしてこのつまようじになったのです。

取材協力:広栄社